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東御に吹く、ネパールの風。チャイと焼き菓子の店「mimiLotus(ミミロータス)」が届けるもの@長野県東御市

公開日:2022/08/15

15歳の少女の心をすくい上げてくれたのは、ネパールで出会った少数民族・シェルパ族が振る舞う一杯のチャイでした。
年齢も性別も国籍も違うけど、チャイを囲めばみんなが笑顔になれる。甘くてスパイシーな幸せは少女の心をとらえて離さず、鎌倉で紅茶屋を開くまでに至りました。

13年の営業を経て、紅茶屋は旅するチャイ屋に。鎌倉だけでなく、ネパール各地でチャイを振る舞ってきた店主が新たに東御市でチャイ屋をオープンしました。風に交じるスパイスの香り。ネパールの景色が目に浮かぶようです。

ネパールの文化を通して知る、広い世界とチャイの魅力

ああ、いい香り!店に入ると、たくさんのスパイスが混ざり合ったエキゾチックな香りに包まれた。それだけでワクワクと心が弾んで、気分は一瞬で南アジアにひとっ飛び。

大屋駅のほど近く。旅をコンセプトにしたチャイと焼き菓子の店「mimiLotus」では、お菓子を食べる感覚で、スパイスやハーブを噛みしめながら味わう“食べるチャイ”を提供する。店主を務めるのは、やわらかな笑顔が印象的な吉池浩美さん。15歳で紅茶屋になることを決意した彼女の半生は、熱意と行動力にあふれていた。

チャイの定番、本場・ネパール、インドのスパイシーな味わいの「マサラ」。美女と野獣をイメージした、華やかなローズとシャープなブラックペッパーの「ローズ&ブラックペッパー」。季節限定・気まぐれチャイの「ラベンダー&レモン(梅雨限定)」(3グラスセット840円)。

吉池さんがチャイと出合ったのは約30年以上前。当時中学生だった吉池さんは学校に馴染めず、ひとりの世界に引きこもる生活を送っていた。
ある時、学校に馴染めない子どもを集めてネパールでトレッキングツアーが行われることを知る。偶然にも同時期にネパールでホテルを経営する親戚の叔父がいたこともあり、両親の「広い世界を見てきなさい」の一声で単身ネパールへ。
ヒマラヤで2~3週間、テントを張りながら移動する間、現地の少数民族・シェルパ族が荷物を運び、食事を作ってくれた。そこで毎回振る舞われたのが、川の水、水牛の乳を使って作られたチャイだ。年齢も性別も国籍も違う自分を受け入れ、皆で囲んでチャイを飲むその文化に触れて、吉池さんは紅茶屋になることを決意した。
さらに、学校に対する心境にも変化が。「現地の山奥に暮らす貧しい子どもたちが、どんなに遠くても学校をとても楽しみにしている姿を見て、私もちゃんと学校に行かなきゃ!って思ったんです」。

帰国後、東京の自由学園に進んだ吉池さんは、紅茶屋の夢を実現するために早速行動に移った。紅茶研究家・磯淵猛さんに会うために、「紅茶専門店 ディンブラ」を訪ねたのだ。
「突然高校生が訪ねて来たことに磯淵さんはびっくりしていましたが、私の夢を聞いて、目標を持つことは大切だと言ってくれました。でも学校生活も大切にね、とも」。
その言葉通り、吉池さんは勉学に励み、卒業後は磯淵さんの店で10年間師事。紅茶の技術はもちろん、今のmimiLotusをつくるうえで大切な下地をたくさん教えてもらったという。
その後、念願だった自身の店「紅茶専門店 mimiLotus」を鎌倉にオープン。修業時代をベースに、オリジナルブレンドの紅茶やチャイを開発するほか、教室やセミナーなども積極的に行い、吉池さんは必死に走り続けた。
「おばあちゃんになるまでやるぞ!という気持ちでしたが、10年目を迎えた時、同じことをまた10年できるかなって…。そう考えた時、全然ワクワクしなかったんです」。

各地を巡る旅から得た経験が、唯一無二の一杯を生み出す

そんな時、学校の後輩からWebマガジンで77種類のチャイを紹介する連載をしてほしいと頼まれる。おもしろそうだと思った吉池さんは、さっそくレシピ作りに取りかかることに。
「77種類のレシピ、なんと2日でできちゃったんです。チャイが好きなんだと実感しました。当時のお店にはチャイは3種類しかなかったけど、ファンも多かった。よく考えたら紅茶屋の原点はネパールで飲んだチャイだったのを思い出しました」。

初心に戻った吉池さんは手鍋とカップ、そして日本のスパイス代表として七味唐辛子を持ってネパールへ。本場はマサラが主流だったが、自分のオリジナルチャイを現地の人に飲んでもらいたかった。
「ネパールの首都・カトマンズを訪れた私は、たくさんのチャイ屋がある中で、とあるお店のチャイを飲んで、ここでチャイを作りたいと直感的に思いました。店主にお願いをしたら案の定拒否。突然現れた外国人にそんなこと言われたら当然ですよね(笑)。毎日頼み込んで、それでも5日目に断られたら諦めようと思っていたところ、常連のお客さんが「いい加減作らせてやれよ」と助け舟を出してくれました。そしたらキッチンはダメだけど、地面にガスコンロを置いてだったら良いということで、チャイを作らせてもらったんです。10日程の短い滞在でしたが、とても刺激的で腑に落ちる経験でした」。
そして吉池さんは帰りの飛行機で決意する。店を閉めてネパールに行こうと。

思い立ったが吉日。帰国すると、吉池さんはネパール在住の日本人のブログを読み漁った。その中で、ライターの宮本ちか子さんのブログと出合う。客観的かつ愛を感じる内容に惹かれ、「この人と会って話したい!」と思った吉池さんは、さっそくネパールでチャイ屋を営みたいことをメールで相談。すると、すぐに返事がきた。
結論から言うと一喝された。ネパール人ですら仕事がないのに、外国人が暮らしていくなんて到底無理だろう、と。下手に夢を抱かせないところに、吉池さんはますます好感を抱く。
驚いたことにその一日後、滅多に日本へ帰ってこない宮本さんが、群馬でスパイスのワークショップを行うことを知り、吉池さんはすぐさま会いに行った。そしてもう一度、ネパールでチャイを淹れたいという思いを伝える。話を聞いた宮本さんは「ビジネスじゃなくて、経験として来たら」というアドバイスをくれた。「ちなみにうち、一部屋空いてるけど」という一言も添えて。
うまくいくことは自然と道筋ができている。これは行くしかない!と吉池さんは思った。店や教室の予約が入っていたので、一年かけて鎌倉の店を閉店し、その2カ月後に再びネパールへ。宮本さんの家を拠点に、約10カ月間、ネパール中を旅しながら現地の人々にチャイを振る舞った。自分の修業でもあるため、チャイはすべて無料。日本人のチャイ屋を現地の人々は温かく迎え入れ、それは吉池さんにとってかけがえのない経験となった。

吉池さんがネパール各地を巡って現地の人々にチャイを振る舞う様子。一番好評だったチャイを聞くと、チョコ&シナモン、チョコ&オレンジなど、チョコレートを使ったチャイが大人気だったそう。「ネパールではチョコレートがとても高価なので、タダでチョコレートが味わえるとあって、たちまち行列になりました(笑)」。

地元である東御市に帰ってきたのは2019年。イベントやワークショップなどに出展しながら、チャイ屋を営むための物件を探していたもののピンと来るものがなく、そうこうしているうちにコロナ禍に。今後も現地へ食材や雑貨を買い付けに行くほか、各国を旅することも考え、かつて木綿問屋だった実家の一部を改装して店を開くことにした。
「この店が私にとっての集大成です。師匠の下で学んだ上品なチャイ、それと正反対の現地で学んだパンチのあるチャイ。今私が作るチャイはそのふたつの経験や技術をすべて合わせてできあがったものです。ネパール式の作り方に、旅先で見た景色や感じた香りなど、自分の閃きから生まれるさまざまな食材を加えた完全オリジナル。チャイに正解はなく、これからも旅で得た経験からどんどん進化していきます。その時のベストを皆さんにお出しできたら良いなと思います」と吉池さん。今の夢は、世界中で自分のチャイを振る舞うこと。東御市を拠点に、甘くてスパイシーな幸せを人々に届ける。

店の奥には小さな庭があり、青々と茂る草木の中で、目が覚めるような色の花々が空に向かって背を伸ばしていた。天気の良い日は縁側にラグを敷いて、席として案内することも。庭の奥からは悠然と流れる千曲川が望める。

押しつぶし、挽いて丸めたCTC茶葉を使用。しっかりとした味わいの紅茶を淹れることができる。無殺菌の牛乳を使用する本場の味に近付けるために、牛乳は低温殺菌。さらっとしながら、煮詰めることでミルキーに。

「マサラ」「シナモン&チョコ」「カルダモン&レモン」「ジンジャー&オレンジ」「ローズ&ブラックペッパー」「ティムル(ネパール山椒)&チョコ」「ネパールラム」の定番7種のほか、季節限定「気まぐれチャイ」から好きなチャイをチョイス。1グラス330円、2グラスセット630円、3グラスセット840円、おかわり300円。「淹れたて熱々が一番おいしい!ハーブもスパイスもオーガニックなので、嫌でなければぜひ噛んで味わってください」。
このほかスリランカ、ネパールから厳選して取り寄せるブラックティーや、ハーブをふんだんに使ったオリジナルブレンドティーなど、さまざまな紅茶が味わえる。

カルダモンベースのさわやかな自家製マサラや、柑橘のような香りのネパール山椒など、約30種類のスパイスを組み合わせてチャイを作る。

長門牧場のアイスクリームを使った「自家製マサラとバニラアイス」(580円)。彩りと食感のアクセントにピスタチオを添えて。クロテッドクリームと自家製の紅茶シロップでいただく「焼きたてワッフル」(680円)はサクサク&もちもち!

鎌倉の店舗でも使っていたチャーチチェアを配置。机は吉池さん手作り。素焼きのコップを使用するなど、ストイックではなく、できる範囲で環境にも配慮。「いいことしてるなと思うと、食べる人も気持ちがいい。ちょっとだけでも、無理なく、がモットーです!」。

本棚にある吉池さん手書きの旅行記やチャイ図鑑は必見!

店舗のロゴはネパールの紅茶ラベルが原案。

鎌倉の店舗でも大人気だった「ナチュケット」の記録も。“ナチュラルなビスケット”の略で、吉池さんオリジナルのヴィーガンビスケット。もともとはスコーンが原型で、ヴィーガンにできないかと思い考案したそう。牛乳と卵の代わりに菜種油と豆乳を使用。サクサク、ホロホロの食感で、ほんのり塩味。ドライフルーツの自然な甘さが特長。もちろんmimiLotusでも販売。

ナチュケットのほか、国産小麦粉、全粒粉をベースにオーガニックスパイスやハーブを使ったヴィーガンビスケットや、グルテンフリーのビスケットもおすすめ。やさしい甘さのカモミールとジューシーなオレンジが香る、信州のさわやかな木漏れ日をイメージした「南アルプスのこもれび」や、スパイスの女王・カルダモンと相性の良いジンジャーを合わせた「彼女はクイーン」など、ネーミングにも惹かれる品ばかり。約14種類、すべて旅の中で出会った景色から生まれたレシピ。「香りと旅は一体化している。チャイをはじめ、私のレシピは旅の景色から生まれてくるものがすべてです」と吉池さんは語る。

年に一回、ネパールに買い付けに行く吉池さん。現地で仕入れた雑貨のほか、自家製スパイスやブレンドティーも販売。(編集部・田中)


※本記事は雑誌「月刊長野Komachi」(7月25日発売号)の内容を再編集したものです

旅とチャイと焼き菓子と。mimiLotus
●住所
東御市本海野23・2
●電話
080・9521・7547
●営業時間
11時~17時(16時LO)
●定休日
水~金曜、ほか不定休。詳細はSNSを確認
●席数
10席
●駐車場
5台
●HP
https://mimilotus.net/
●Instagram
https://www.instagram.com/mimi.lotus/?hl=ja

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